手足を炎で拘束された堕天馬は、手下の怨霊が煌希の邪魔をしているのを後目に確認し、安心したようにほっと表情を緩めた。 「随分と余裕そうね」 堕天馬を拘束している炎神、稀炎が少し不満気な表情で言う。手足を焼かれながらも、全く苦痛の表情を見せずに堕天馬は笑う。 「まあね。仲間の無事が何より。仲間思いなあんたたちなら理解できるだろう?」...
「逃すかっ!」 命手繰りを追おうとした煌希だが、五体の怨霊が行手を阻む。堕落族ほどの力は持たないが、生気を奪い、破滅をもたらす瘴気を纏うそれを前に、煌希は足を止める。...
煌希は黄金の剣を構えて堕天馬を睨みつける。稀炎の方は、見張りの怨霊が燃え尽きるのを確認してから部屋に入り、煌希の隣に並んだ。少し微笑んでいるようにも見えるが、何を考えているのか分からない。 堕天馬が腰のベルトの鎖から十字の剣を外し、一歩前に踏み出る。...
「私は並行世界から来ました」 「いきなりぶっ飛んでるねぇ!」 茶化すように堕天馬が突っ込むが、命手繰りは表情を変えずに続ける。 「仲間に異空間と時空を行き来する能力持ちの者がいます。その力で私は並行世界の過去、ここでの現在に来ました。目的は幻夢界の未来を変えるためです」...
「おいおい、あいつ何やってるんだよ」 異界送りが鏡の中を見つめて呆れた声を出す。鏡には堕天馬と交渉中の命手繰りの姿が映されている。 「別にいいんじゃない?このパターンは今までやったことなかったし。まずは命手繰りに全部やらせて結末を見て、その後でアタシたちも干渉しようよ」 異界送りとは対照的に、楽しそうに鏡を覗き込む時空渡り。...
命手繰りと相手の視線が交わる。額に一角を持ち、長身の修道女の服を着た赤い髪の堕落族。物珍しそうに命手繰りを眺める紅い瞳、背のズタズタの翼、巨大な十字のような剣を鎖で腰ベルトに繋ぎ、地面にずるずると引きずっているのが目立つ。堕天馬と呼ばれる個体だ。 「こんにちは、お嬢さん」...
「カミ様からの命令です。私を並行世界に連れて行きなさい」 命手繰りの要求に、異界送りは少しぽかんとする。言葉の意味を理解すると、はぁ?と口を歪めて不快感を示してきた。 「お前何言ってんの?」 「連れて行けと言っています」 「それは分かってるっての!お前は裏方担当だろうが!どうして連れて行かなきゃいけないんだよ」...
「ノジアの王国兵士九名を確保しました。どれも身体能力が高く、精鋭として使えそうです。一週間程で洗脳完了するでしょう」 命手繰りの報告に、カミはそうかと頷く。 ユニライズの人員は、すでにかなりの数が集まっていた。手下が多いに越したことはないが、カミを喜ばせるにはパンチの足りない情報だった。 「例の対策はどうなっている」...
命手繰りは空中に映し出されたディスプレイを見つめる。そこには連れてきた王国騎士のデータが書かれていた。 すでに捕らえていた男と合わせて九人の王国騎士が見つかった。全員元エリートや実績持ちの優秀な者ばかりで、特殊能力まで身につけている。 「これほどの力がある彼らを、王国がなぜ手放したのかは不明ですが、思わぬ収穫でしたね」...
朝日が昇るとともに一日が始まるように、薄暗い地下では太陽のかわりに苦痛による起床が一日の始まりであった。狭い部屋にはベッドと木の椅子とテーブルだけで窓はなく、床と壁は一面冷たいコンクリートに覆われている。扉のある一面は壁ではなく、鉄格子である。そう、ここは牢屋だ。...