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ハニビータウン2

 鈴葉がちょうど飴を食べ終えた頃、貿易街道も終わりを迎え、目的のハニビータウンが見えてきた。街は赤煉瓦の塀に囲まれ、入り口には金蜂の兵士がおり、通行費を徴収している。

 

「聖都といい、ハニビータウンといい、出費が痛いですねぇ」

 

 風沙梨がげんなりしながら妖鉱石の入った袋を準備する。

 通貨としてよく使われる妖鉱石。エネルギーが結晶化したもので、自然発生や自身の力から生み出すことができる。ただし、自身で妖鉱石を生成するには、相当な妖力を消費する。力の弱い風沙梨では、一日動けなくなるほどの力を使っても、小さい妖鉱石一つ作るのが限界だ。風沙梨の袋の中身は、ほとんどが自然発生した妖鉱石を拾い集めたものだった。

 貿易街道を通って来た全員が入り口の列に並んでいく。列は三つに分かれていて、観光客、商人、住人とで通行料が違うようだ。二人は観光客の列に並び、先程もらったチラシを眺めながら順番を待つ。

 

「喫茶店ですかね?」

「ハチミツの?」

 

 『ハチミツタイム』と店名が書かれたチラシ。コーヒーやケーキ、軽食などの絵が描かれている。全ての料理にハチミツを使っているだとか。

 

「ずっと口が甘くなりそうですね……」

「ハチミツのハンバーガー、気になる……」

 

 メニューを見ながら想像に花咲かせていると、すぐに順番がまわって来た。兵士も慣れているようで、列の流れがスムーズだ。

 

「二人ですね。では、小妖鉱石十個です。属性はどれでも大丈夫です」

「十個……」

 

 前来た時は一人三個だったのに、と風沙梨が顔をしかめる。兵士の少女は妖鉱石を入れる器を差し出しながら、風沙梨の心を読んだかのように苦笑いした。

 

「実は今、荒くれ者が街周辺をうろついていまして。そいつらが去るまでは通行料を上げろと、上から命令が出ているのです」

「そうなんですね。ちょっとタイミングが悪かったみたいですね……」

「申し訳ないです。――はい、十個確かに。では、ハニビータウンを存分にお楽しみください」

 

 風沙梨が妖鉱石を渡し、兵士が道を開ける。鈴葉も軽く会釈して兵士の前を通り過ぎた。

 

「大きい街はしっかりしてるねー。野老屋村と大違いだ」

「住人の数が違いますからね。それに、この辺りは不毛の荒野もありますし、浮浪者が多いみたいで、聖都もハニビータウンも警備がしっかりしているんですよ」

 

 ふーんと相槌を打つ鈴葉。風沙梨は野老屋の森からほとんど出ないのに、博識だなあと感心する。

 

「しっかりしてるけど、ちょっと堅苦しくて緊張するよね。野老屋村がのんびりしたところで良かった~」

「その分、美味しいお店がたくさんありますけどね」

「うぐぐっ、それは羨ましい……!で、でも、野老屋村のおばちゃんが作ってくれるお菓子も美味しいもん!」

 

 村のグルメポイントを挙げようと唸り始めた鈴葉。風沙梨はどちらの場所も良い所があると言ってなだめ、さてと足を止める。現在は街の入り口から少し歩き、広場のような開けた場所にいる。そこからいくつもの分かれ道があり、屋台やショップ、住宅区域など、それぞれに続いている。

 

「どこに行きますか?このチラシの場所でも、他に行きたいところでもあれば」

 

 ハニビータウンに来た目的を思い出し、鈴葉が目を輝かせる。ふふふと腰に手を当てて笑い、完璧と言えるほど堂々としたドヤ顔で言い放つ。

 

「もちろん食べ歩き!全部食べ尽くしてから休憩しにチラシのお店に行こう!」

「そんなにお金ありません」

「大丈夫!」

「大丈夫じゃないです」

 

 行ってから考える!と鈴葉は露店が多く並ぶ通りに進んで行った。はぐれないように慌てて風沙梨が後を追う。

 

 それからは鈴葉のターンだった。店主に話しかけては会話を弾ませ、食べ物をタダでもらったり、割引やおまけなど付けてもらう。もちろん風沙梨は代金を払おうとするのだが、店が忙しかったり、別の客が来たりで話を流された。風沙梨の想定より多くの食べ物やら土産用の品が鈴葉の手持ちに増えていく。

 

「師匠、ちょっと待って……」

「ん?風沙梨も欲しいのあった?」

 

 自覚なしに普通に楽しんでいる鈴葉が、口をもごもごさせながら振り返る。店主に詫び、鈴葉を追いかけで風沙梨は息を切らしている。

 

「もうちょっと計画的に動いてくださいといつも言ってるじゃないですか」

「だってー、せっかくだからいっぱい見ていきたいじゃん。ほら、これ美味しいよ?」

「話を逸らさないでくだ――もごっ」

 

 一口サイズの焼き菓子を風沙梨の口に突っ込む。丸いふわふわの生地の中に、ハチミツと生クリームが入っている。何だかんだ、風沙梨も美味しいと耳をぴくぴくさせて黙って味わっている。

 

「ね!美味しいでしょ?ほら、次行こうーーー!」

「んもー、せめてもう少しゆっくり歩いてください」

 

 はいはいと返事をし、歩き出した鈴葉の隣を、猛スピードで何かが通り過ぎた。

 

「きゃっ」

 

 何かにぶつかられ、風沙梨が尻もちをつく。袋を落とし、いくつか中身が石畳の道に転がり落ちた。

 

「風沙梨!大丈夫?」

「はい、危ないですね……」

 

 鈴葉は風沙梨に駆け寄って怪我がないか確かめる。外傷はないようだ。風沙梨がむすっとして落ちた土産の品を袋に戻していく。何事かと驚いていた通行人も風沙梨と同様に、迷惑な何かに文句を垂らして、それぞれの目的に戻っていく。

 風沙梨が荷物をまとめ、立ち上がる。そして行きましょうかと言いかけて、何かに気付いて身を強張らせた。

 

「どうしたの?どこか痛い?」

「い、いえ……その」

 

 風沙梨の顔が青ざめ、すぐに怒りへと変わる。

 

「どうしましょう、やられました」

 

 風沙梨がずっと握りしめていた妖鉱石の入った袋がどこにもなかった。

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コメント: 2
  • #1

    匿名I (火曜日, 12 12月 2023 03:08)

    めちゃめちゃ…おなか空いてきました。
    すごく美味しそう…。
    妖鉱石属性がそれぞれあるんですね
    みちみちにドロップしてるのも神秘的に感じました。
    まさかのスリに合うとは荒くれ者とは盗人だったのか…
    でもきっとスリをする理由があったと推測。
    それが荒くれ者の利益になる理由かまたは…黒幕がいるのか…
    続きがとても楽しみです。
    次回も楽しみにしています。

  • #2

    幻夢界観測所 (木曜日, 14 12月 2023 06:02)

    匿名Iさん、コメントありがとうございます!
    妖鉱石には炎、然、水、地、風、光、闇の7属性があります。近々用語の説明で詳細書きますね�
    見た目がちっちゃい子供だったから狙われたのかも…?
    週一くらいで投稿されるはずです!!ありがとうございます!!