広場は来た時と同様に賑わっていた。街に出入りする人、休憩や待ち合わせをしている観光客、所々に金蜂の兵士が槍を持って立っている。
鈴葉は風沙梨の姿を探すが、人が多くて簡単に見つかりそうにない。
「ネルちゃん、風沙梨のこと覚えてる?」
「天狗さんといたちっちゃい子?」
「そうそう、もしかしたらこの辺にいるかもしれないんだ。黒髪で薄い桃色の服を着てて、いっぱい荷物持ってると思う」
二人で座れそうな場所中心に風沙梨を探す。噴水、ベンチ、花壇、広場の隅など。広場の範囲は大まかで、街の出入り口から、大通りまでとかなり広い。ここにいるという確信もなく、先の長さが思いやられる。
広場の周りをぐるりと一周回ることにした。半周程して、街の出入り口近くまで来た。
「いないね」
「うん」
この辺りにも風沙梨の姿は見えず、諦めて先へ進もうとする。
『師匠!』
「風沙梨?」
確かに風沙梨の声が聞こえたが、どこからか全くわからない。立ち止まって辺りをキョロキョロと見回すが、まだ目視できない。そんな鈴葉を見て、ネルは数歩先で何事かと首を傾げている。
『こっちです!街の出入り口の、小さい建物です!』
声に従って街の出入り口を見ると、確かに門のすぐそばに石造りの建物がある。
「あっちに風沙梨がいるみたい」
「見つけたの?」
「風沙梨が私たちを見つけてくれたみたい。能力で案内されてる」
音を操る風沙梨の能力。風沙梨の声を特定の人物にだけ届けることが可能で、おそらくそれで語りかけていたのだろう。
風沙梨がいると思われる建物へ向かう。入り口には金蜂が一人立っており、近づいてくる鈴葉とネルを訝しげに見ている。
「ここは我々の詰所です。何かお困りでしたら警備中の金蜂に」
「その、中に木霊がいませんか?小さい女の子の」
「ああ、あのずっと外を見てた方の。どうぞ」
やはり風沙梨が中にいるようで、事情を知ると金蜂はあっさり通してくれた。
中は大した広さはなく、休憩所として椅子やテーブル、小さい台所が設けられているだけだった。何人か金蜂の兵士がゆっくりくつろいでいる。
「師匠!」
窓際から風沙梨が元気よく声をかける。簡素なテーブルの側のスツールに腰かけ、こちらに手を振っている。小一時間ほど離れていただけだが、久々に会うような感覚がして、鈴葉の心に安堵が広がる。自然と口元に笑顔が浮かぶ。
「良かった〜!合流できなかったらどうしようかと思ったよ」
「師匠ならきっと広場を通ってくれると思いました」
「それにしても、どうしてこんなところにいるの?ここ金蜂の詰所でしょ?」
てっきり外で待っているものとばかり思っていた。一般人が休ませてくださいと頼んで、ほいほい中に入れてもらえるわけでもないだろう。
「師匠が飛んで行った後、道に立っていた兵士に通報したんですよ。そうしたら二人が師匠の向かった方に飛んで行って、残った方がここに連れてきてくれたんです。ほら、この通り手持ちが多くて……一応事情聴取という形で」
風沙梨は説明しながら、苦笑いで背後を指差す。そこには買ったり貰ったりしていた土産の袋。鈴葉が持っていた分もあり、風沙梨一人で持つには苦労する量だった。
「ここの窓から広場が見えるので、師匠を見つけたら声をかけようと思って、ここで待機させてもらっていました。ネルさんが一緒にいらしたのには驚きましたが」
「どーも、ネルです」
「こっちもいろいろあってね――」
鈴葉も風沙梨に別れてからの出来事を話す。獣人の男を追って戦闘になりかけ、ネルが巻き込まれ、風沙梨が事情を話した金蜂、甘風と花蜜が対処してくれたこと。
そして盗まれたものを取り返し、罰金をネルが助けてくれたと。
「そ、そんな高額をネルさんが……!?」
妖鉱石を取り返したと聞いてほっとしたのも束の間、風沙梨は口をあんぐりと開けて驚愕する。ネルはまぁねと、特に気にした様子もなく軽く頷く。ネルにとっては本当に大したことではないのだろう。感謝と申し訳なさで縮こまっている風沙梨を見て、なぜそんな目で見られるのか分からないといった顔をしている。
「せっかくネルちゃんと会えたんだし、あのお店行こうよ」
「露店でもらったチラシのところですか?ハチミツタイムでしたっけ?」
「そうそう。疲れたし、ネルちゃんとゆっくりしたいねって話してたんだ」
風沙梨は荷物からチラシを探し出す。食べ歩きを優先して、後に取っておいたカフェ。チラシには簡単な地図も載っている。
「そうですね。ここに長居するのも悪いですし、お店に移動しましょうか」
風沙梨は立ち上がり、荷物をまとめ始める。鈴葉も自分で持っていた分を持ち、詰所の出口へ向かう。金蜂に礼を言い、喫茶店ハチミツタイムへ向かった。
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匿名kさん (月曜日, 08 1月 2024 17:51)
うp乙です!
書き上げお疲れ様です
風沙梨ちゃんの能力が発揮されているところが見られて嬉しいです。
今回自分が注目したのは挿絵でした。
窓際の背景しっかりと描かれていて
よりわかりやすくなってました。
窓から見える景色は詰め所感をちゃんと表現されててすごいと感じました。
さりげなく窓から見える花々が少しししかないのが雰囲気良かったです。
ネル樣と風沙梨ちゃんのかけ合わせは何だか見ていて可愛らしいと感じてさしまい少し微笑ましく読ませていただきました。
鈴葉も無事に風沙梨とあえて良かった…安堵の呼吸私は尊いと感じます。
ついに次!次に!!
ガールズトークなのか!!!
喫茶店でいったいなにがあるんだああああああ!!!
幻夢界観測所 (火曜日, 09 1月 2024 14:10)
匿名kさん、コメントありがとうございます!
マンガなどでほとんど出てこなかった音を操る能力、ついに解禁されましたw
窓の外は多分広場ですが、情報量多くて人影を消したので遠近感が^^;きっと道にはお花いっぱいです。
大食い、真面目、眠気、この三人でどんな会話が……!?