敵意を示す鈴葉に、思い通りの展開になったと古句莉は目を細める。薙刀を鈴葉に向けると、警戒した鈴葉は翼を広げて宙に浮く。
「面白いぞ獣天狗。この海神を許さないだって?一体私はどうされるんだろうなあ!」
古句莉が薙刀を振るうと、いくつもの水弾が生成される。先程刃の使いの蛇がした攻撃と同じだ。相手に向けて発射し、近くで爆発させて冬の寒さで動きを鈍らせるつもりだ。蛇よりは大きな弾だが、直接当てるわけではないので威力は抑えてある。
鈴葉は同じ手はくらわないと、水弾を大きく避けて飛沫を回避しようとする。しかし古句莉の操る水弾は鈴葉を追尾し、上下左右自在に飛び回る。
「くっ!こんな攻撃!」
鈴葉は空中で止まり、扇を構えて追ってくる水弾に向き直る。水弾は容赦なく鈴葉に接近し、次々に爆散して飛沫を散らしていく。同時に鈴葉は自身中心に渦巻く風を起こし、水飛沫を全て吹き飛ばして濡れるのを防ぐ。
「ふむ、これは合格だな」
「じゃあリン様を――」
「こんなもんで終わるか」
古句莉はまた水を生成すると、それを氷柱に変える。何十も創り出された氷柱が斉射され、煌めく先端が鈴葉に襲いかかる。
どうせ逃げても追尾してくるのだろうと、鈴葉は氷柱を迎撃しようと妖力を集中させる。圧縮した風の刃を氷柱に向けて放ち、氷を砕く。しかしそれでも脅威は去らなかった。古句莉が操るのは水に関する全て。砕かれた氷はまだ古句莉の制御下にあり、細かいガラス片のような鋭さを持って鈴葉を追撃する。水飛沫の時のように風を起こすのは間に合わない。袖で顔を覆い、なるべく肌への被害を防ぐ。
「こんな程度も防げないのか?話にならんぞ」
その後も古句莉は圧倒的な力で制圧するのではなく、簡単そうな術で一歩鈴葉を上回った攻撃を仕掛け、じわじわと鈴葉を弱らせていく。何かもう一手あれば古句莉の上を行けるのではないかと思わせるため。新たに取得した堕落族の力を使えば、と。徐々に攻めの手段を強くすることによって、どれくらいの強さの相手まで自力で対処できるかもついでに調べられる。
地面から生やした四本の水の触手に鈴葉の相手をさせ、古句莉はリンと話せるくらいの距離まで近づく。
「あいつなかなか自力で頑張ろうとするな。力を使わないように歯止めでもしたのか?」
当たり前だとリンがじろりと睨む。最初は風の術で氷を削ろうとしていたが、古句莉特製の強固な氷に歯が立たず諦めたようだ。
「お前は賢いだろうから、私があいつを殺す気じゃないことは分かってるだろう。そんな怒るなよ」
悪名しかない海神が相手だから分かっていても信用できないのだ、とリンは内心呆れる。やれやれと首を横に振るが、古句莉はもうリンから目を逸らしていた。
「そろそろ次に行くかー。しかし、もうテストも飽きてきたなぁ」
古句莉は鈴葉が苦戦している場所に戻る。巨大な水の触手は切ることも吹き飛ばすこともできず、鞭のようにしなって鈴葉を叩き潰そうとしている。鈴葉は避けるだけで、対抗策を見つけられていない様子だ。
「そろそろ疲れただろう」
古句莉は攻撃を止め、息を切らして冬場というのに汗をかいている鈴葉にテストは終わりだと告げる。
「本当……?そんなこと言って、ここからが本番ですとか言うんじゃ」
「なんだ、分かってるじゃないか」
「うわ……」
絶望した表情になる鈴葉。古句莉は無邪気な満面の笑みで少しの間佇んでいた。鈴葉の息が少し落ち着いてきたのを見計らって、古句莉は笑顔の仮面を捨て、退屈そうな表情を見せる。
「こんな煩わしいやり方、私らしくないよなあ。前回の空跡宮での続きをしようぜ、獣天狗。本気でかかってこい」
古句莉の全身から殺気が溢れ出す。その威圧感だけで失神する者もいるであろう迫力だ。鈴葉も思わず怯むが、囚われたリンを見て己を奮い立てる。
手加減されていた攻撃ですらまともに対処できなかったのだ。相手の様子見をしている猶予など鈴葉にはなかった。得意な空中へ舞い、古句莉の全方位から風の刃を発射する。その攻撃は体を液状にした古句莉をすり抜け、木々や地面に当たって消えた。
まだ攻撃をしてこない古句莉に鈴葉は畳みかける。幻夢界に存在する属性相性。海神古句莉にそんなもの無関係ではあると分かっているが、悪足掻きでためすしかない。一度帰った時に持ってきた妖鉱石を帯から取り出す。水に強い然のエネルギーを持つ妖鉱石だ。
鈴葉は巨大な竜巻を起こし、それに然の妖鉱石のエネルギーを抽入する。相手の生命力を吸収し、鈴葉を回復させる竜巻が出来上がった。竜巻は真っ直ぐに古句莉へ向かっていく。石や木の枝なども風の胴体に吸い込み、竜巻の脅威は上がっていく。
「そんな風で私をどうにかしようってか。舐めやがって」
古句莉は竜巻に向かって水を発射する。水も竜巻に吸収され、少し動きは鈍ったが消えることはなかった。一瞬鈴葉の目に希望が灯ったが、それもすぐに凍り付いた。古句莉の水を飲み込んだ竜巻は見る見るうちに渦巻く氷へと変化し、氷に動きを邪魔された風は然のエネルギーもろとも霧散してしまった。
慌てて次の攻撃を考える鈴葉に、古句莉は溜息を吐く。
「本気でこいと言ったよなあ?」
古句莉は自身を霧状に変化させ、空気に溶け込む。姿を消した古句莉に警戒し、鈴葉は目と耳で居場所を探ろうとする。しかし古句莉は音もなく鈴葉の背後に現れ、耳元で囁いて居場所を明かす。同時に鈴葉の胴体に薙刀を突き刺した。
「なぜ本気を出さない?」
「いっっっ!!!!!ほ、本気……だ、よ」
腹を貫き赤く染まった薙刀の刃。鈴葉は痛みに歯を食いしばり、傷口から湧き上がる熱い感覚に息が止まる。思わず目尻に涙がじわりと浮かぶ。理不尽な神の怒りが分からないでいた。
古句莉は舌打ちをし、傷口を抉るように薙刀を回転させる。鈴葉が苦痛の叫びを上げ、墜落しそうになるのを古句莉が首を掴んで持ち上げる。
「まだ隠しているだろう。切り札を!使え!!」
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ゆがみん (月曜日, 03 6月 2024 03:32)
お疲れ様です。
調査通り越して殺しかねん所をギリギリで寸止めして探る感じすごくいいと思いました。
一方的に防戦一方になる鈴葉に対して容赦なく攻める古句莉。
臨場感があり戦闘風景が浮かび楽しいです。
鈴葉にぶっ刺して思考回路を混乱させ痛みで急ぎ選択を迫るあたりのシーン最高ですね。
まじで緊迫!ドキドキ。
最後の当たりまじで悪役じゃないかと思うくらい害悪ヤンキーしてて面白い。
次回が楽しみです。
幻夢界観測所 (月曜日, 03 6月 2024 03:56)
ゆがみんさん、コメントありがとうございます!
この邪神、手加減できたんだ。それも気まぐれで飽きられ、殺意モードになってしまいましたが。
古句莉はまあ、悪役でしょう……すぐ暴力や殺生に行ってしまいます。主人公天狗かわいそう……。